生命保険募集の趨勢を決するのは、営業職員の営業力もさることながら、営業職員を採用・育成し、戦力化していく「拠点の力」だろう。採用力と育成力を兼ね備え、常に組織拡大を図る盤石の拠点の存在こそが生命保険の市場の深耕を支えている。本紙では現役ベテラン優績拠点長に協力してもらい、これまで成功してきた採用と育成を中心とした実戦的な拠点経営の中で得てきたノウハウを紹介していく。
今回は、これまでの経験から学んできた採用方法、たとえば新契約と併せて営業職員や組織長からどう採用の協力を引き出すか、あるいは現在の採用環境、実施して効果のあった初期教育や育成プログラム、さらに営業職員の退社防止に効果のあった対応ノウハウなどについて語ってもらった。
吉田功所長(43=仮名)が語った具体的な採用活動について紹介しよう。
採用見込みを探す具体的な活動方法は、次の4点。
①契約内容確認活動の際に、その家族の中から採用対象者を探す。
②採用チラシの戸別投函
③在籍営業職員による電話での〝友呼び〟活動
④既契約者のうち、30〜40歳代の女性を対象にした一斉DMの実施
オーソドックスな方法だが、とにかく継続して行うことが成功のポイント。よく言われることだが既契約者は自分が加入している生命保険会社と保険商品の一番の理解者のはずだ。有力な採用見込者であるといえるだろう。
たとえば、契約内容確認活動の機会に家族状況に変わりがないかどうかを確認するのは鉄則だ。新契約の見込み情報と併せて採用情報も収集する。既契約者を訪問することによって、次のような話が出れば採用のチャンスとなる。
「子育てがひと段落したので外で働いてみたい」
「住宅ローンや子どもの教育費の足しにしたいので働きたい」
「結婚退職で中断している厚生年金の積み立てを再開したい」
「お姑さんと同居することになって毎日息が詰まりそうだ」
また営業職員の周辺には、たとえ既契約者ではなくても、このような希望や悩みを抱えている人がいるかもしれない。「友だちとか知り合いにこんな人いない? いたら紹介してよ」と依頼できるような協力者を日頃から見つけておくことも大事だ。
生命保険の販売は、どんなに時代が変化し、それに伴ってさまざまな生命保険商品や販売チャネルが登場し台頭してきたとしても、主流となるのはこれまでも、そしてこれからも「対面販売」。それも女性の営業職員が中心になるだろう。
生命保険への加入は強制ではなく任意である。つまり他の商品の購入と変わらない。しかも生命保険には形がない。さらに日常的にどれほど多く生活上のさまざまな危険にさらされていたとしても、いつ顕在化するか分からない。だから決して安くはないその掛金(保険料)に応じた効能や機能を普段、さらに加入時であっても実感することができない。
このような商品特性を持つ生命保険には、だから対面販売が最も適しているといえるのだ。世帯加入率が世界一の生命保険普及率を誇る日本の生命保険市場だが、特に戦後〝日本の隅々まで〟生命保険が普及した背景には、営業職員による地道な募集(営業)活動があったからに他ならない。
その営業職員を採用、育成し、さらに戦力化してマーケットに送り出す。生命保険契約の生産拠点となっているのが生命保険会社が全国津々浦々に配置している営業部や営業所、支部といった〝拠点〟だ。
採用力と育成力を兼ね備え、常に組織を拡大していく盤石の営業拠点の存在こそが生命保険会社と生命保険という〝仕組み〟の普及を支えている。
少子高齢社会とほとんど絶望的な財政難の中で、国が運営する社会保障制度は抜本的な見直しを迫られている。国民は将来にわたり自助努力を、さらに社会保険料のさらなる負担増を求められ、併せて給付の削減を覚悟しなくてはならない。
それだけに、これまでも死亡、医療、年金、介護保障について、公的社会保障制度を補完してきた生活保障産業としての生命保険の役割はさらに以前にも増して重要になってくるだろう。
したがって、これまで生命保険の普及を担ってきた営業職員と、採用育成をしてきた拠点としての営業所の役割もまた、これまで以上に重視されるはずだ。
その理由として営業職員の機能には、単に生命保険の販売だけでなく、東日本大震災でも実証されたように、既契約者の生存確認や保険金や給付金を迅速かつ正確に受取人の手元に届ける上で大きな力を発揮したことがある。
対面販売を基調とする営業職員チャネルは、単に販売チャネルにとどまらず、アフターフォローチャネル、サービスチャネルとしても極めて有効である。
生命保険営業には幅広い関連知識が求められ、さらに高度な専門知識を要求されることもあり、販売は他の消費材に比べて難易度が高く、しかも肉体的にも精神的にも大きな負担をもたらすことが少なくない。
営業職員の採用が難しい理由もこのあたりに起因するのだろうし、営業職員チャネルには以前から大量増員→大量脱落、すなわち「ターン・オーバー」といった問題が常に顕在化していた。
これは現在でも、「営業職員の勤続年数別の構成は新人・育成層とベテラン層に二極化した状況にあり、中堅層の強化・拡大が依然として重要な課題となっている」(生保労連第45回定期大会議案『経過報告・運動方針』)ことからもわかる。
つまり、新人育成がいかに難しいということだが、それに成功さえすれば、定着しベテランの域に達するまで在籍することになる。
組織をより大きくするためには採用・育成こそが何よりの鍵になるが、どうすれば有為なかつ将来性のある人材であることを見抜き、採用できるのか、そしてどうすれば採用した新人営業職員を優績者に育成できるか。さらにどうすれば、マネジャーまで育てられるのか。
組織拡大のための採用と育成…。このことは営業所経営にとって長く先人から受け継がれ、かつ多くの拠点長がこのテーマで試行錯誤を重ねてきた永遠のテーマであるといえる。
前回挙げた採用手法に以外に、「採用イベント」も付け加えておこう。いずれについても、成功のポイントは継続して行うこと。ただし、「採用イベント」についていえば企画がマンネリ化しないように心がけることが必要だ。
いつも手芸教室や年金教室といったカルチャースクール系や、ボウリング大会といったスポーツ系の催事では、どこでもやっているだけに参加者を募る側の営業職員も志気アップに繋がらない。
ある拠点では「採用イベント」として、チケット代が女性について割り引きになる水曜日の「レディース・サービスデー」を活用した映画鑑賞会を行っている。採用候補者と一緒に話題の映画を鑑賞するイベントだが、主催した拠点長によれば効果は大きいという。
「最初はなんとなく身構えていた採用候補者も、われわれと一緒に映画を観て、そこで感動を共有することができれば、〝共通の話題〟ができることで自然とコミュニケーションを図ることがきます。その後の茶話会でも映画の話も含めて話が大いに弾み、打ち解けた雰囲気の中で営業所見学から、さらに採用へと一気に進みました」
映画鑑賞会で注意したいのは、どんな内容の映画を選ぶかだ。共感を持ってもらうためには「家族愛」や「人生の生き方」などをテーマにしたものが好ましい。神奈川県のある拠点長によれば、サメに襲われ左腕を失いながらもプロを目指した実在のサーファーの「ソウル・サーファー」や老夫婦の変わらない愛を描いた「君に読む物語」、韓流映画の「私の頭の中の消しゴム」などが、好評だったという。
また、ある拠点では既契約者を対象にした食事会をホテルやおしゃれなレストランを会場にして定期的に開催しているという。ホテルで行うことで高級感を感じてもらい、さらに自分への期待感を持ってもらえていることを意識させる。
一方、既契約者も採用見込者のターゲットにしよう。加入者は加入した生命保険会社や保険商品の一番の理解者だからだ。
「今度入ってもらったこの保険、ずいぶん気に入ってもらえたみたいでとってもうれしいわ!ところで、こんないい保険なんだから、あなたもお知り合いとかに勧めてみない?」などど言われたら「じゃあやってみようかしら」と考える既契約者もいるかもしれない。 実際に既契約者からの採用は少なくない。
採用には至らなくても採用モニターとして紹介に協力してもらったり、採用情報の収集を依頼することもできる。新契約や採用に大きな成果を挙げているという。
入社年次の新旧にかかわらず、営業職員にとって最優先の仕事は、その収入や昇格や資格の維持に直結する新契約の生産に他ならない(採用成果も収入に反映され、評価はされる)。
日次、週次、月次で新契約の生産に追われている営業職員にとって、どうしても採用活動は二の次になりがちだ。中には「二兎(新契約と採用)を追うものは一兎も得ず」そんな風に考えて、採用活動(協力)に対して消極的な営業職員もいることだろう。
生命保険業にとって、組織の拡大と新契約の増産・伸展は表裏一体のものだ。ほんの一握りの優績者の業績に支えられているような、そこに安住しているような、そこで思考停止に陥ってしまっているような組織には、永続性・発展性は期待できない。新契約と組織の拡大両面で絶えず成長・拡大を実現していてこそ盤石な組織である。
こういう組織では、たとえば拠点長の資質やパーソナリティーといった要素で業績が左右されることはない。たとえば人事異動によって、誰が組織の長として赴任してこようが、業績は新契約面でも組織の面でも安定的に成長していくことができる。
したがって、採用に対する協力を営業職員から引き出していくためには、入社時から新契約の生産と併せて採用による組織の拡大がなぜ重要であるのかを、しっかりと認識してもらうことだ。
つまり、日常の営業活動に採用をしっかりと組み込んでもらうようにしなくてはならない。
支社や営業所でも採用を営業職員に任せっきりにするのではなく、週あるいは月に一回は採用デーなどを設けることで、営業職員に対する意識付けを怠りなく、かつ継続的に行っていかなければならない。
昨今では首都圏エリアでの採用を、年4回と限定している生保会社も出てきた。これは育成率アップを目指すことが目的だ。
毎月毎月、新人職員が入社してくれば、各々が持っている人脈の広さや能力の差に加えて、習得度の差も顕著となる。それぞれのレベルに合わせた育成手法を指導者が実施するのは不可能に近い。そこで、年4回に限定することで、せめて習得度の足並みを揃えようとするらしい。
とはいえ、採用の情報収集は日頃の営業活動と併行して行わなければ、年4回といえども出てこない。
したがって、採用見込者を発掘できても、採用日までの継続的フォローが不可欠となる。
千葉県のある拠点では、有力な採用見込者には週に1度、営業職員が花一輪を持参して訪問。働こうという気持ちに迷いや変化が生じないよう継続的なフォローをしているそうだ。
特に仕事をするに当たっての不安や心配事がないかを訪問のつど聞いて、不安を取り除き、激励したりしているという。
また、首都圏のある支社では、採用月前にインターンシップ期間を10日間くらい設けて、採用見込者に簡単な勉強会やタブレットのデモンストレーションを行っているようだ。もちろん、日当も支給する。
それによって、朝9時出勤の習慣を付けたり、仕事の理解や意欲を促す効果が期待できるようだ。
入社した新人営業職員は、入社説明会を始めとする最初の8日間研修などを経て一般課程試験を受験。合格後は生命保険募集人としての登録を済ませて、いよいよ生命保険営業の第一線にデビューするわけだが、このデビュー時に新契約と併せて採用についても意識した活動を心がけてもらうように指導する。
会社によって異なるが、入社から3ヵ月、あるいは長いところでは6ヵ月くらいはいわゆる保証給が支給される。一定期間だが収入が保証されるのだから、多少精神的にも余裕がある。生命保険営業で成功できるかどうかはまだ未知数だが、とにかく精神的に高揚していることはほぼ間違いない。
「私にもできそうな気がする」と考えている時に、新契約活動と併せて採用活動も行わせる。
具体的には、たとえば既契約者への挨拶訪問や契約内容確認活動時に、保障内容や契約内容の確認と併せて家族情報の収集を行う中で、採用候補者情報を収集するように習慣づける。そんな活動の中から、採用候補者を見い出せたら、さっそくアプローチさせる。自分の入社した経緯について「マイストーリー」を作らせておき、見込者に語れば説得力が増すはずだ。
「こんな思いでこの仕事を始めた」というマイストーリーを伝え、「だからあなたも一度、うちの営業所に来て話を聞いてみない?」
と誘ってみよう。
迷っている様子だったらムリをせず、すかさず拠点長や組織長、先輩営業職員に話を繫ぐようにする。
今回は、採用で大きな成功を収めた機関の事例をいくつか紹介しよう。もちろんこれらの機関では、いずれも単に大量採用を実現しただけでなく、採用後の育成率についても高い実績を残し、組織・陣容の拡大を実現していることを申し添えておこう。
まず最初は、わずか3年半で陣容を4倍に拡大したある営業所の事例を紹介しよう。同営業所のA営業所長(女性)は、機関経営理念についてこう語っている。
「(営業所長を拝命して以来)採用にあたってもっとも重視してきたことは、たとえば販売技術とか営業力といったものではなく、規律やマナーといったむしろ〝心〟の部分です。
その理由は、この営業所は平均年齢が若く、在籍者36名中大半が20代という事情によります。これから長い間、地元に根付いた活動を続けていくためには、やはり(地元の)お客さまからの信頼を得ていかなくてはならないからです。そして、私たちは(消費者がイメージする)生命保険営業のイメージを、少なくとも自分たちの担当エリアの中でだけでも変えていきたい。だからこそ、仕事上の規律やルールの遵守を厳しく求めています」
具体的には、
①全員基準服を着用する。
②外食は一切禁止。たとえば昼食などは必ず営業所内で食べる。
③お客さまと食事(接待)をしたり、帰りがけに同僚と飲みにいくのも禁止。
若い女性で、しかも生保営業というストレスのたまりやすい仕事をしていくうえで、かなりきついルールであるといえる。しかし、厳しいからといって働きにくい、あるいはギクシャクした感じや雰囲気は一切ない。むしろ職場の全員がこれほど一体感をもって、かつ楽しそうに働いている機関にお目にかかる機会はめったにないほどだ。
引き続きどのようにして採用しているのかについて聞いてみた。
④職場見学に来てもらう段階では、むしろ門戸を広く開いている。ただし、営業所長や所長との面接の段階では人柄や態度、それにマナーや常識といったものを厳しく見極める。
⑤採用内定を出して、初期研修に入る前までの1ヵ月間は、毎日営業所の朝礼に参加してもらう(まだ入社前だが、若干の交通費を支給する)。
⑥新契約の締切日までの1ヵ月間、毎日朝礼に参加してもらうことで、生保営業の厳しい現実を実体験してもらう。この時点で「この仕事は私にはとてもムリだ」と判断した人は内定を辞退することになる。
採用候補者は、毎日の朝礼参加で定時出勤と朝礼への参加がいかに重要であるかを正式入社前に自然と認識することになる。こうして〝肚(ハラ)〟を括って入社した営業職員だけに当然出勤率もよい。また在籍率も自然と向上する。
⑦営業所内に「採用委員会」を設け、ここが運営する採用イベントを月に3回、必ず開催する。時間は午前11時〜午後1時ぐらいまで。採用イベントの内容は「カルチャースクール」的なものではなく、在籍者4人による「体験談発表」(持ち時間は各々10分間)と食事会を行なっている。
⑧食事会には営業所の在籍者は全員参加する。全員で発表者による「体験談」を聞き、その後食事会となる。毎回営業所内の2つのチームが当番になって、食事の材料の買い出しから調理まで、すべて前日の夜までに終了しておき、当日は営業所に置いてある4台の炊飯器で一斉にご飯を炊く。この間、採用候補者を連れてこれなかった部員が順番で洗い物や子守りをする。
⑨採用候補者には「採用イベントがあるので来ない?」「一度私たちの職場を見にきてください」「働いてみませんか?」といった具合にストレートに誘う。
⑩採用候補者は、週に2回の「採用一斉ペア活動」で見つけることが多いという。この「採用一斉ペア活動」では、チームに関係なくペアを組み、組織を超えてお互いに応援し、仕事を教え合う体制ができている。
⑪営業所員にはいつも「採用手帳」を持たせて「採用一斉ペア活動」の後で、前出の「採用委員会」の委員長に提出させる。
「採用手帳」は、採用候補者1人につき1ページを使い、面接や交渉内容を時系列で記載していく。こういった一連の活動について営業所長は「この営業所でしかできないことではないかと思う」と話すが、この営業所の経営から学べることはきわめて多いと思われる。
「見学会では、あくまで採用を表面に出さずに『なんだか面白そうな話をしているみたい』とか『なにかためになりそうな話をしてくれるようだ』と思ってもらえれば、来店してくれる確率は高くなると思います。
たとえば既婚女性の就職状況や、働く女性には働いていない場合と比べてどんなメリットがあるのか。また将来、介護に携わるようになった時に生じる問題点や、資格取得のための情報提供などをテーマにしたら出席者は増えると思います。
ある営業所では『フグの毒で死亡した場合は災害給付の対象になるか』というテーマで講演をしたところ、大盛況だったと聞きました」
「これから、自分の住んでいる町や地域で仕事をしていくつもりだという人たちなら、私たちの仕事(生保営業)を見てもらうことも決して無駄にはならないと思います。
仮に私たちの仕事のことで誤解されているようなところがあるならば、営業所見学やイベント参加は、その誤解を解くチャンスにもなるのではないでしょうか」
ある女性拠点長は、採用候補者に対してこんなふうに話していた。
「女性の仕事の内容を見てみると、一般的には男性の補助的・補佐的な仕事が多いですよね。
それに比べて私たち生保営業の仕事は補助的、補佐的な仕事ではなく、1人の〝個人事業主〟として、会社の看板を背負って仕事をしています。それはある意味では自分の仕事に対して責任をもって取り組めて、とてもやりがいのある仕事だともいえます。
生命保険をお勧めしながら、いろいろなお客さまとお話しすることで、こちらが教えられることもたくさんありますし、逆に私たちの知識を提供することでお客さまが喜んでくれることも多いんですよ。そこからいろいろな人と知り合え、仕事を超えて人間関係が広がっていく楽しみがあります」
「お子さんはこれからどんどん成長していきますよね。お子さんが大きくなっても一緒に、どんな話題ででもお話しができるお母さんでいないと、そしてお母さん自身も成長していかないと、いつか〝のけ者〟にされてしまいますよ。そうならないためにも外に出て、私たちと一緒に仕事をしてみませんか?
保険が取れるか取れないかの心配なんて、まだずっと先のことです。まず、5年後10年後に自分がどうなっていたいのかを夢に描いてみましょう。そして子どもの成長に合わせて、その夢の実現に向かってスタートしてみましょう」
短期間で営業所の陣容を10数倍に拡大したA営業所長の例を紹介しよう。ちなみにここは所長にとって〝初場所〟、しかも営業所の所在地は人口10万人にも満たない地方の小都市。機関経営の経験でもマーケット的にも決して恵まれているとはいえない状況だった。
A所長の赴任当初の在籍者はわずか9名。したがって業績も支社内の機関中、最下位クラスの常連。この状態が改善されることなく長く続くことになれば、機関統合、あるいは最悪の場合、機関閉鎖も免れることができない。
このような状況の中でこの新人営業所長は、営業所に着任後4年目にはなんと在籍者数45名の大型機関に育て上げることができた。
一つの営業所に4年半というのは異例の長さではあるが、この間に陣容を5倍にまで拡大できた秘訣はどこにあるのかを探ってみた。
営業所に着任したA所長が最初に取り組んだのが職場環境の改善。これを営業所の陣容をこれまでの5倍にまで拡大することができた要因の第一に挙げる。「人間は自分では気がつかないうちに、まわりの環境の影響を受けるものだ」という信念に基づいた行動だった。
具体的には、着任早々営業所を金融機関にふさわしく、また営業職員たちが気持ちよく働くことができるように徹底して模様替えをしたという。
この模様替えは、A所長の当初のもくろみ通りに営業職員の〝ヤル気〟を引き出すのに大きな効果を発揮した。これまで営業所になんとなく漂っていた沈滞ムードが一掃されるとともに、なによりも営業職員の勤務態度、仕事に対する姿勢ががぜん変わったという。
たとえば単純に営業所がこれまでよりも格段にキレイになったのも要因の一つなのかもしれないが、同僚誘致にも積極的に協力してくれるようになった。
その結果、営業所が主催する採用イベントの参加者や営業所の見学者も大幅に増加した。そして着任2ヵ月目にはこの中から着任後初めて採用することができ、それから以後は毎月安定的に採用ができるようになった。
また、業績や採用が軌道に乗ってきた。着任から2年目には、営業所独自の制服(上下グレーのスーツ)を決めた。これは生活保障産業の担い手として、また金融機関の職員でもある生保営業職員としての自覚とプライド、さらには営業所の一体感を高めるうえで大きな効果があった。
「環境がよければ人(ヒト)は気がつかないうちにその影響を受けるものだし、逆に環境が悪ければ、その方がはるかに楽なこともあってあっさりとその影響を受けてしまう……」
A所長はこのことをあらためて確信したという。
「社会人としてのマナーをわきまえていない人間が、お客さまを訪問したとしても受け入れられるはずがない。そして、お客さまから受け入れられないことによって、この仕事に対する自信を失うことにもなりかねない。会社や自分に対して自信がないのに採用なんてできるはずがない」
こう考えたA所長は週に1回、朝礼の中でデパートや銀行と同様のマナー研修を取り入れ、実践した。この研修では、お茶の出し方から顧客との接し方、電話での受け答えなどを徹底して教育することを通して、職業人としての意識を植え付けるようにした。その結果、営業職員たちは高い使命感と志を持った「仕事人」に変わった。
さらに万年最下位機関、お荷物機関から、支社の筆頭機関の常連になったこともあり、そこに所属しているというプライドも加わって、在籍する営業職員の一人ひとりの仕事に対する意識はより高く、かつより強いものになったとA所長は語る。
事実、この営業所を取材した記者が取材を終えて帰ろうとすると、近くで仕事をしていた営業職員や事務員たちが、ごく自然に出口まで見送ってくれたのには感心もしたし、さらに感動すらした。
A所長によれば、この営業所では「マナー16」を定めている。
その一部を紹介しよう。
・挨拶は大きな声で。
・出勤・退社時には所長およびチーフに直接挨拶をすること。
・営業所内では耳打ち話やヒソヒソ話はしない。
・来客に対しては即座に挨拶をする。お帰りになる時は全員で見送り、1人は一階の出口までお見送りする。
などだが、営業所ではこの「マナー16」の実践が徹底されているという。
こうした意識が営業所にしっかりと根付いている背景には、A所長の「絶対に妥協しない」という強い姿勢がある。それはこれまで紹介した採用やマナーの面だけではなく、もちろん営業面でも同様である。
「生命保険の募集にあたっては、きちんとした手順を踏んだニード募集をするように徹底しています。日報になかったような名前の新契約が突然出てくるようなケースについては、一応成約までの経緯や事情は確認するようにしていますが、極力受け付けないようにしています。
こういう新契約については、たとえ『ゼロ報告をすることになっても要らない』と日頃から宣言しています。締切間際の、それこそギリギリに持ってきたような契約は、その多くが〝いかにも〟といったものです。だからそのまま突き返すようにしています。とにかく毎日のように責任額の達成というか数字だけを強く言っていると、こういうことになってしまう。こういったことに一切妥協しなかったことが結果的に優良契約の増産につながり、それが良好な継続率と保有の純増を実現することができた大きな要因であったと思っています。
仕事は常に〝前倒し〟で行う。こうすることで健康診査未了や条件付契約の承諾が取れずに新契約が不成立になってしまうといった事態を防止できる。
「うちでは毎月20日前後に新契約の受け付けを締め切っています。会社所定の締切日より7日前後早いのですが、その後はその時点で営業所の数字がどうあれ、営業職員の査定がどうあれ、新契約は一切受け付けません。新契約の受け付けは毎月20日でおしまい。こうしておけば申込書や手続きに不備があったり、条件付きになったとしても余裕を持って対応できます。だからこのことについては絶対に譲りません」と強調する。
一方、機関経営や生保営業で成功するためには、ギリギリまであきらめない執念や数字に対する責任感や執着といった要素も求められる。こういったこととの折り合いはどう付けているのだろうか。
A所長によれば「こちらが設定した数字を一方的に〝やれ〟というのではなく、『自分たちが自分たちのために最低限やり遂げなくてはならない数字を期限までにやる』という考え方が営業所には浸透しています」と説明する。
S営業所は、都内の文教地区と下町の境に位置するかつての名門営業所だった。しかし歴代の営業所長は黙っていても、毎月相応の新契約を〝持ってきてくれる〟3人のベテラン優績者の業績に頼りすぎてしまったことで、いつのまにか採用と育成がおろそかになってしまった。営業所と自らの再生を賭け、背水の陣で臨んだM所長の経営を見ていこう。
ベテラン職員の高齢化に伴って、組織面だけでなく業績面でも長期にわたって低迷を続けてきた。そして気がつけば知らないうちに支社の万年お荷物営業所となっていたという。
これだけ長期間にわたって業績が低迷していれば、普通なら支社や本社が何らかの形でテコ入れをするところだが、長年にわたって営業所にはもちろん、会社にも絶大な貢献をしてきたベテラン優績職員に気を遣ってか、本社も支社長も彼女たちには強く出ることができないようで、そのウサをはらすかのように、もっぱら責め立てられるのは営業所長やスタッフたちだった。もっとも彼らもまた彼女たちに〝気を遣って〟強く出ることができないでいた。
そんなS営業所を約2年をかけて再生させたのがM所長だ。
このM所長、前任地だった2ヵ所の営業所では思うように業績を伸ばすことができなかったこともあり、ここ2年ばかりは本社の営業教育部に席を置いて、再起の機会を虎視眈々と狙っていた。辞令を受けると、背水の陣の覚悟でS営業所に乗り込んでいった。
かつての名門営業所を再生するだけでなく、やがて営業所分離まで実現することができたポイントはどこにあったのか。M所長の着任時の在籍者はたった5人。名門営業所の面影はまったくなかった。赴任前に営業所の現状については十分かつ詳細にレクチャーを受けていたM所長。
低迷の続くこの営業所を改革し、かつての名門営業所を復活させるためには増員(採用)するしかないと決意した。
「私が営業所に着任したのは一昨年の4月。当時の在籍者はたったの5人で、しかも平均年齢は60歳を超えていました。10年ほど前までは常時30〜40人が在籍していた営業所とは思えないような凋落ぶりです。この営業所の華やかなりし時代を知っているだけに大変ショックでした。名門再建と意気込んで乗り込んできたのですが、これでは再建どころか文字通りのゼロ発です」
着任当時の営業所の現状をM所長はこう振り返る。さて、着任早々M所長は、長くこの営業所を支えてきてくれた3人の優績者に仁義を通した。
具体的にはM所長の営業所の経営方針と、彼の目指す組織の規模や新契約数値などを説明し、その達成に向けて協力を依頼した(具体的な内容は次回に紹介)。
そして最初に実行した改革が朝礼の充実だった。それまでの営業所の朝礼はほとんどが督励一本。「督励さえしておけばあとはなんとかなるものだ」歴代の所長はこんな感じで朝礼にあたっていたようだ。どの営業所でも結構やっていると思われるのだが、M所長はキッパリとこれを止めた。
昨年の5月から採用の取り組みを始めたのだが、1年後の5月末の在籍者数はようやく10人。倍増することはできた。 それ以降は新人が新人を呼び込む流れができ、着任からほぼ2年を経過した昨年6月末の在籍者数は18名となった。
「初めの一年間では、せっかく採用しても育成面での失敗が多く、退社する新人が少なくありませんでした」
とにかく採用に主眼を置いていたこともあって、育成のための受け入れ体制がおろそかになっていたのも確かだったと述懐する。
「当時を振り返ってみると、やはり営業所に活気がなかったのが一番の原因だったと思います。今でこそ、在籍者の平均年齢は40代半ばくらいになっており、30代の人も何人かいますが、当時の在籍者が平均年齢は60歳前後です。ベテランと新人の世代間格差が大きすぎたことも原因の一つでしょうが、とにかく営業所のムードを明るくしようと、採用活動は率先してやりました」
改革の第3弾が、生命保険会社だったらどこの支社、どこの営業所にもある壁に貼ってある成績表のグラフの表示方法の変更だ。具体的には金額表示をやめて、件数表示に切り換えたのだ。金額よりも件数で評価しようという試みだった。多件数販売を要求されるわけだから、営業職員は活動量のアップを余儀なくされ、個人能率も必然的にアップするだろうという計算だ。
「最初は比較的募集しやすい第三分野が多くなるだろうと懸念したのですが、新しく採用した営業職員については、主力商品で育成するという考えで臨んでいることもあって、杞憂でした」(M所長)
この取り組みの結果、着任当初「月2件がやっと」だった個人能率が、新人からの刺激もあって、現在は月間個人能率の目標は4件が当たり前になってきた。1週間に1件新契約を挙績する勘定だが、この目標を達成するための1日の活動量も逆算していけばおのずと決まってくる。
これをチェックし、アドバイスし、さらに同行応援するのがM所長の仕事になる。
S営業所は、文教地区と下町の境に位置するか名門営業所だった。しかし歴代所長は黙っていても、毎月相応の新契約を〝持ってきてくれる〟3人のベテラン優績者に頼りすぎてしまい、いつのまにか採用と育成がおろそかになってしまった。営業所と自らの再生を賭け、背水の陣で臨んだM所長の経営を見ていこう。
M所長がS営業所に着任して、最初に取り組んだ朝礼の改革について紹介しよう。
M所長はそれまでの督励型の朝礼を、教育を主体とした実践指導の場に変えた。たとえばロープレは毎日の朝礼時に必ず行う。当日ロープレを担当する営業職員には、前日に本人に知らせるとともに、あらかじめどんなテーマでやるのかについても指定する。要するに事前に予習をさせておくわけだ。
ロープレは、もちろん実際に顧客を訪問している時と同じようにやらせる。つまり商品内容や話法それに税制などの周辺知識をしっかりと覚えざるを得ないようになっている。
朝礼ではそのほかにも、商品(他社商品を含む)内容の講習や営業職員がレポーターとなる成功事例の紹介、販売活動のあり方や販売テクニック、それに採用=組織拡大の必要性や採用見込みの発見法や採用テクニックなどをテーマにした教育が行われる。
「どうしたら保険を契約できるか」「具体的な話法や人との接し方」「生命保険販売に役立つ税の知識」一見どこでもやっているようなことだが、これをとにかく徹底して繰り返し、完全に自分のものにし、自由に使いこなせるまで愚直に行う。
「これこそが募集活動の中でお客さまに対するミスリードを防止するコツです」(M所長)という。
営業職員はこれを繰り返しているうちに「これなら私にもできる」「これだけやったんだから絶対新契約が獲れる」といった気持ちになって、自信を持って、かつ積極的に生命保険営業あたることができるようになるそうだ。
新人の教育と育成は既契約者訪問と飛び込みを組み合わせ、実地訓練の中で行なう。活動は毎日、新旧のペアで行動する。このペアの組み合わせは毎日変わる。この中で新人は先輩の話法を盗み、一方ベテランは後輩の行動力とバイタリティを吸収する。
S営業所の営業エリアは千代田区の一部と文京区のほぼ全域で、住宅地とともに印刷、出版・製本業などの個人営業の小規模事業所が多い。
また、高台には高級住宅地や昔からのお屋敷街が広がる一方で、下町気質を色濃く残しているのもこのエリアの特徴だ。
営業所を再建し、組織をさらに大きくしていくためにはどうしても既契約者・飛び込み活動から紹介募集へと導線を延ばしていくことによる新規顧客の開拓が必須だ。
下町気質を残した住宅地や個人事業主の多いこのエリアは、意外かも知れないが、飛込活動にはうってつけのエリアなのだ。
「たしかに既契約者を訪問しながら、飛び込みをしても、昼間のお客さまの在宅率はそれほど高くはありません。インターフォン越しに断られることも少なくないです」
活動効率といった面では必ずしもベストな方法ではないが、かといってセキュリティーの厳しい職域活動も難しく、新しい顧客との接点方法を多面的に求めていく必要がある。
「生保営業のベテランである先輩から話法やお客さまとの交渉術、さらに生命保険募集を直に学ぶことができる、この新旧ペアによる飛込活動は新人の育成にはもってこいです。それになによりも度胸が付きます。今の時代、飛び込みの効用はこれに尽きるのではないでしょうか」
メーンとなる既契約者訪問活動は、S営業所が名門営業所だっただけに相当な数の保有契約があった。
しかし保険料の銀振化、クレジット・カード払いが進む中、既契約者との関係は長く疎遠であった。すでに退社した営業職員の既契約もかなりの数にのぼっているのだが、歴代の所長たちががこれをなんらかの形で活かそうとした形跡がまったく見られなかった。
もっとも、逆にベテラン3人組は自分の膨大な既契約を主なベースマーケットにして、ここから毎月コンスタントに、しかもかなりの新契約を生産していた。
さて、あらためて既契約、特に退社した職員の既契約を確認してみると、たとえば「リビング・ニーズ特約」が付加されていなかったり、5日免責型の入院特約のままで放置されているようなものも少なくなかった。
会社の方からも新商品や「リビング・ニーズ特約」や1泊2日型の医療保険の発売に合わせて、既契約者一斉訪問の指示があったはずだが、まだまだ手つかずの〝宝の山〟だったのだ。
もっとも少人数の在籍者で、この膨大な保有契約をベースにして追加契約を目的にした販促をするとか、採用活動を推進するといった企画を発想する余裕もなかったのかもしれない。
M所長は「これなら新人を採用しても、育成用の活動基盤(市場)を十分に付与することができる」と確信し、白地への飛込活動と合わせて、既契約者を対象とした保障内容見直し活動を推進し、大きな成果を上げることができた。
S営業所は東京の文京地区と下町の境に位置するかつての名門営業所だった。しかし、歴代の営業所長たちはだまっていても毎月相応の新契約を持ってきてくれるベテラン優績者に頼りきってしまい、いつのまにか採用と育成はおろそかになって凋落の一途をたどっていた。そんなかつての名門営業所と自らの拠点長としての再生をかけ、背水の陣で臨んだM所長の成功までを追った。
当時、生保各社では既契約内容の再確認を目的とした「契約者訪問活動」が始まっていた。訪問機会の絶好のチャンス到来にM所長が自ら先頭に立って、この「契約者訪問活動」に取り組んだのはいうまでもない。
この会社の営業方針がかつては個人年金や養老保険といった貯蓄性商品の拡販にあったこともあり、既契約の保障額はおおむね不足していたし、5日免責型の入院特約のままの契約者も少なくなかった。
この訪問活動では、既契約内容の確認と併せて、家族の異動状況もチェックし、既契約に過不足があったり、家族に未加入者がいるような場合は新たな保障プランを提示するなどの新契約活動に加えて、採用についてもチャレンジした。
契約当時は子育ての真っ最中だったような人でも、10年以上経てばそろそろ子育てから解放されているかもしれないからだ。
訪問目的のメーンは既契約内容の再確認だが、契約者や被保険者の生年月日、家族状況は事前にリストアップされたデータから、採用候補者として「これは!」と思われるような人(主に奥さん)がいる、ないしはいそうな家庭には採用面でのアプローチも必ずかけるようにした。
契約者はほとんどの場合夫となるので、訪問はどうしても土・日となる。長く疎遠であった契約者にも電話などで訪問趣旨を説明すると、案外訪問を快諾してくれた。契約者訪問活動については一部の生保会社の流していたTVコマーシャルのおかげで結構浸透していた。
もちろん、放置されて怒り出す契約者や「待ってました」とばかりに解約を申し出る契約者も少なくなかった。契約者である夫への面会の取り次ぎは妻にお願いすることになる。これに時間がかかる。その間に営業職員と妻の間には何度かやりとりがあり、この過程である程度の人間関係ができる。
採用の話は契約者への「契約内容の説明」や「新しい保障プランの提案」が一段落した後に切りだす。
もちろん、いずれの場合も担当者にM所長が同行する。一通り説明が終わるとほとんどの人が「生保のセールスなんてとてもできません」「生保のセールスなんて絶対イヤ」と言う。
もちろんこれは想定内の反応だ。こういう時の説得する側は1人よりも2人の方が絶対によい。採用見込みを前に、M所長と担当者が掛け合い漫才のように生保営業の話や営業所の雰囲気を伝えていく。
もちろん「シナリオ」は事前に用意されており、このシナリオに基づいたロープレも入念に行っている。
「私がよいところ、メリットばかりを強調して〝そうだよね!〟と同行者に同意を求めると、同行者は〝エー! そうかしら?〟とか〝そこまで楽しくはないよ〟と、どちらかというとデメリットで切り返してきます。漫才のボケと突っ込みです」
こうした硬軟織り交ぜた会話から、採用見込み者はなんとなく生命保険営業の仕事や拠点の雰囲気、上司との人間関係を感じたり、想像したりできるのだそうだ。
採用話法のポイントは以下の通り。
・健康保険や年金、介護保険などの社会保障制度を学んだり、ライフプランニングの組み立て方など後々役に立ちます。
・生命保険営業の仕事は楽ではありませんが、収入が得られればお子さんの教育費に回せます。
・営業を通した人との触れ合いは、人生を楽しく有意義なものにしてくれます。
・もっと自分の自由になるお金で1年後、5年後、10年後の資金計画を立てませんか。
こんなことを面白おかしく話しながら「うちの営業所に一度来て、自分の目と耳でいまの話を確かめてみてください」と来店を勧める。
「じゃあ一度お邪魔してみようかしら」と営業所を訪ねてくれる人もいるという。
こうしたプロセスを経た既契約者からの採用も最近では増えている。
入社後は会社所定の研修を経て、あらためて営業所に配属され、その後は前述のように営業所独自の朝礼や先輩職員とペアを組んでの飛び込みや既契約訪問活動の中で育てられ、やがて独り立ちしていく。
「再スタートした営業所ですが、ベテラン5人以外は全員在籍2年未満の新人ばかりです。それがベテラン組も刺激しているようで、彼女たちもまた頑張ってくれています。現在支社で新規に採用した4人が研修中ですが、支社長からはこの調子で増員することができれば、ベテラン組を2組に分けて拠点分離をしてもいいかな……と言われています」
これからが楽しみだと、M所長は自信を見せた。
久保恵介所長(仮名:42歳三場所目)は、今では珍しい「オレについてこい」型のワンマン経営で鳴らしてきた。そんな久保所長が4年前に赴任したのが拠点統合で消滅寸前の東京多摩地区にあるK営業所だった。
久保所長が赴任してきた時のK営業所の1ヵ月の新契約は5〜6件、稼働も2〜3名(在籍は10名だったが、ほとんど出勤しない)だったが、4年経った現在、月間平均新契約件数は60件以上、稼働21名(平均在籍者数は23名)となっている。K営業所を軌道に乗せるまでにはほぼ3年かかったという。
久保所長がK営業所に赴任して一番最初にしたことは個人面接だった。職員一人ひとりを営業所に呼び出して話をした。
「在籍はしていても勤怠の悪い職員がほとんどでした。こういったケースでは、リーダーが職員の自宅を訪問するケースもあるのですが、それはしません。戦国時代なら相手の城に行く時は降伏する時だけです。だからこちらの城に呼び出して話をしました」。「私の気に入った答えをした職員だけを残してあとは辞めさせました」という。
気に入った答えとはどんな答えだったのか?
「面と向かって口にすればパワハラなので実際の言い方は気をつけましたが、趣旨としては、私への絶対服従を要求したのです。たとえ右に行こうとしていても私が〝左に行け〟といったら左に行くこと。『そのかわり、私はあなたたちの先頭に立って、3倍働きます』と宣言しました」
この面接で久保所長の要求に〝はい〟と応えて残ったのはたった2人だった。
ここからあらゆる命令権を久保所長に集中したワンマン経営が始まった。ところが赴任から1年経っても実働はたった6人。残った2人の職員が久保所長の意気に感じて連れてきてくれた人が3人。あとの1人はクラークさんの友人だった。「このままやっていたのではいつまでもラチはあかない。何か新しい、しかも変わったことをしなければ」と考えていた時にフッと思い浮かんだのが「同じ釜のメシを食った仲」という言葉だった。
そしてさっそく始めたのが職員との昼食会だった。
「同じ釜のメシは相互理解の強い連帯感の、そして親近感を現わす象徴的な言葉だと思います。話し合いの場としても、お互いを理解する場としても昼食会はやって良かったです。職員同士がいろいろな悩みや相談ごと、それに世間話をしながら、みんなで一緒に食事のしたくをして一緒に食べます」
さて、日常の活動は既契約者の訪問が中心だが、朝礼後、担当地区の一つの町に職員が全員集まり、飛込募集と採用活動も定期的にする。
「このあたりは比較的在宅率が高いこともあって、飛び込みであっても効果は高いです。とにかく担当地区内に一回も訪問したことがない家がないよう、徹底的に訪問を繰り返します」。
お客さまのところで昼食会を話題にしたところ〝なんか楽しそうね〟と興味を持たれて、それが採用に結びついたケースも少なくないという。そして昼過ぎにみんな揃って営業所に帰り、例の昼食会となる。なお、午後は自由活動となる。
「午後は基本的に自主性にまかせ、メリハリをつけます。このリズムが良かったようです」
久保所長の拠点経営における方針の一つが「優績者を作らない」だ。「優績者が営業所の半分の業績を上げていたとしましょう。その優績者がもし、ケガや病気で長期欠勤したらどうなるでしょう?考えただけでも背すじが寒くなりますよね」だから久保所長はこれまでも突出した優績者を拠点内に作らないよう心がけ、その変わり業績的には〝ドングリの背くらべ〟を目指して育成してきた。
「ドングリの背くらべだとみんなお互いに相手をけん制し合い、かつ刺激し合い影響し合うのにちょうどいい。それになによりも誰かが活動できなくなった時のリスクも小さくてすみます」
このような環境であるから、たとえば挙績したとしても決してチヤホヤはしない。「よく朝礼の時などにみんなの前で前日の新契約業績を発表して褒められていたりしますが、うちではあれはやりません。それが仕事で自分がそれで稼いでいるんですからあたりまえのことでしょう。それ(収入アップ)をバックアップすることこそが私の仕事なんです」と久保所長は強調する。
もう一つ、個人指導については決して一対一でしないのも久保所長の方針だ。必ず組織長なり先輩職員なりが同席する。基本は「実践教育と精神教育です。生保のセールスをしているとイヤなことにたくさん遭遇することになります。そんな時に被る精神的なダメージやコンプレックスといったものを個人指導のおりに取り除いてあげるようにしています」
さて中央集権体制のトップに立つ久保所長は、職員一人ひとりに細かな指示をする一方でフォローも忘れない。
「ときどき担当地区を同行のついでに歩いてみるんです。〝うちの職員がお邪魔しませんでしたか〟って。3人くらいが訪問しているところもあれば、誰も訪問していないところがあったりとさまざまです」
職員の雑務もこなす。「ワンマンでいるためにはこれくらいはね」と久保所長は屈託ない。
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