■レクチャー
少額短期保険が誕生
新しい保険会社の動向を読む
アカラックス株式会社 代表取締役 坂本 嘉輝氏
■無認可共済に対するそれぞれの思惑
問題の発端は、保険業免許を持つ保険会社の相次いだ経営破綻と保険会社に対する消費者の不信、そして、それに代わる共済の急成長です。
この時、JAの共済や生協の共済だけでなく、根拠法を持たない、いわゆる「無認可共済」も急激に成長してきました。
加入者からすれば、保険であれ共済であれ、見た目は同じようなものですから、加入手続きが簡単で保険料も安いとなったら、共済を排除して保険会社の契約に入らなければならない理由はありません。
これが無認可共済が急速に普及した要因の一つです。
これだけ急激に普及した無認可共済ですが、行政の側からすると、どこにどのような無認可共済業者がいて、一体どんな事業をしているのかまったくわかりません。
これでは何か問題が起こったとしても行政としては責任が持てません。中には保険業法に違反した事業をしている業者もあるかも知れないという大きな問題がありました。
一方、保険会社にしてみれば、「共済」という名前で免許も受けずに事実上の保険事業が行われているのですから、これを黙認するわけにはいきません。
ましてや法律の適用も規制も受けず、あるいは保険事業に必要な体制の整備をキチンとしないで、それにかかるコスト分安い保険料で自分たちのマーケットを荒らされてはたまったものではありません。
また、何か問題があったときに、保険会社までその巻きぞえを食って、消費者の保険不信や保険離れを促進するようなことになっては困る、と考えていました。
もっとも、こういった行政や保険会社の考えに対して、「無認可共済」の側は、保険業法に抵触しない「特定の者」だけを対象にしたニッチマーケットに、保険会社ではできないようなユニークな保障、あるいはキメ細かいサービスを提供してきて、加入者との間でこれまで特段の問題も起こしていないわけだし、なにも問題はないじゃないか、という意見でした。
■保険と共済、定義変更の影響
議論を複雑にしたのは、改正前の保険業法が「不特定の者」を対象に保険サービスを提供する会社を保険会社と定義し、「特定の者」だけを対象にする保険事業を保険業法の適用対象外としていたことです。
その結果として、何らかの形で「特定の者だけを対象にしている」という体裁を整えれば自由に、いわゆる無認可共済事業をすることができる、というように考えられるようになりました。この違い、つまり、保険会社との違いを際立たせるために、共済の方では保険料を掛け金、保険金を共済金、そして代理店を代理所と呼ぶなどして、「共済は保険とは違うんだ」ということを、ことさらに強調しようとしてきました。
ところで、特定か、それとも不特定かというのはそう簡単に区別できるものではありません。共済側が「特定だ」というものに対して「いや、不特定だ」と反論するのはなかなか難しいことです。
そこで改正保険業法では、この区別そのものを取り払ってしまいました。要するに、特定の者だけを対象にした保険事業も保険業法の適用の対象になる、ということにしたのです。
その上で、容易に判定できるいくつかの種類の団体の構成員のみを対象とする保険事業を、あらためて保険業法の適用対象外としました。
もちろん現実には特定と不特定の間に、限りなく特定に近い不特定から、限りなく不特定に近い特定まで、様々なバリエーションがあります。
結果として起こったことは、かなり特定性が明確であるにも拘わらず、保険業法の適用対象外として列挙された範疇に入らなかった共済が保険業法の適用を受けることになり、保険会社あるいは少額短期保険業者にならなければ事業を継続できないということになったことです。
この部分の共済事業が保険会社や少額短期保険業者にならないままで存続することを認めようという、さらなる保険業法の改正案が民主党から国会に提出されています。
■新業法はどんな影響を与えたか
改正保険業法が施行されたことにより、保険業法の適用の対象外とならなかった、つまり、保険業法の適用を受けることになった無認可共済業者は、まず「特定保険業者」という位置づけになり、その業者の所在地を監督する各地の財務局に届出をすることになりました。行政もこれでようやく、どこにどういう無認可共済が、どんな名前で事業をしていて、連絡先はどこか、連絡担当者は誰かという情報を、その全部とまではいえないまでも得ることができるようになりました。
この特定保険業者という位置づけは暫定的なもので、届出が終わると次に、もしそのまま引き続き保険事業を続けていくのであれば「少額短期保険業者」として登録する、あるいは「保険会社」として免許を取得して、あらためて「少額短期保険業者」あるいは「保険会社」として事業を継続することになります。
本格的な保険会社の免許とくらべて、少額短期保険業者の登録の方は、扱う商品の内容・事業規模・資産運用方法などが多少制限されますが、その分少ない資本金、組織的にも比較的簡易な組織で保険事業ができます。
特定保険業者のいわば受け皿としてできたのが、この少額短期保険業者なのです。当初はかなりの数の特定保険業者が少額短期保険業者として登録し、保険事業を継続しようと考えたようです。また、行政の側もできるだけそれを支援しようと考えていたようです。
とはいえ、たとえ少額短期保険業者とはいっても保険業法に定められたれっきとした保険会社であることには変わりありません。
保険業法の要求を満たし、行政当局も十分納得できるような契約者保護のための体制を、しっかり整えた会社を作るには、やはりかなりハードルが高いことが次第に明らかになってきました。
具体的には、今までなかった色々な手続きや、これまで読んだこともなかった法律の規制で、手間はかかるは経費もかかる、事業のやり方も根本から変えなくてはならないし、なによりも会社を作らなくてはならない。これは多くの無認可共済は、任意団体だったので、少額短期保険業者や保険会社になるためには新たに会社を作らなくてはなりません。
さらに保険会社の勤務経験者などを採用して、保険会社なみの業務運営ができる体制を作らなくてはならない、と万事大変です。
一方、行政の側からすると、これまで無認可共済業者の多くは、その経営体制が整っていない、あるいは募集資料が整っていない、保険料が公平ではない、などなど、山ほど問題があるということです。
行政の側のキチンとした体制整備の要求は、無認可共済業者からすればルールが明確でない、ルールが厳しすぎる、手続きが面倒、要求が高すぎるということになり、むしろ特定保険業者をみんな潰してしまおうとしているのではないか?
無認可共済でのこれまでの実績を活かして、少額短期保険業者として育てるという考え方はないのか?というところにまでエスカレートしかねません。
ところで、手近なところに手ごろで便利な共済があったので、たまたま加入したというだけなのに、行政にしてみれば、実はこういった人たちは無認可共済や無認可共済業者のことをよく知らずに加入しているのではないか?保障内容についても、よく知らずに加入しているのではないか?と危惧しています。
しかし、加入者保護のために、より一層きめ細かな説明をこういった業者が加入者にすることを義務付けることになると、業者にとっても加入者にとってもさらに面倒な手続きが増えるだけ、ということにもなりかねません。
既に加入済みの契約であっても、その契約の引受者が保険会社あるいは少額短期保険業者になれば、あらためてそのための手続きが必要になります。
■現状は業法の思惑通りなのか
この改正保険業法であらたに設けられた少額短期保険業者という制度は、前述のように無認可共済の受け皿ということで用意されたものが、必ずしもその役割に限定されるものではありません。
たとえば、これまで無認可共済事業を行っていなかった企業が、この制度を利用して新たに少額短期保険業者として保険事業を始める、ということも可能です。
実際、12月15日現在で、少額短期保険業者として登録を済ませた会社は全部で10社ですが、そのうち5社はこの新規の保険業者で、無認可共済・特定保険業者が保険会社化した少額短期保険業者は5社しかありません。
従来は、保険事業を新規に始めるためには、いきなり保険会社としての免許申請が必要で、資本金、業務処理体制に、人員構成も非常にハードルが高いものでした。
保険会社あるいは他の金融機関、もしくはかなり大型の事業会社でなければ、保険会社作りなどはできないものだと思われてきました。
したがって、この少額短期保険業者の制度により、まずは少額短期保険業者として保険業をスタートさせ、順調に業績を伸ばし基盤を確立させたうえで、将来的に免許を得て保険会社に発展させようというシナリオも可能になったわけです。
すでに無認可の共済事業を行っている業者が、保険会社化する場合には、これまでの事業、既契約の扱いを考えなければならないのに対して、新規に少額短期保険業者としてスタートする場合には、過去にとらわれずに将来の計画を立てることができるため、その分登録作業もスムーズに行くのかも知れません。
■新業法が制度共済に与えたインパクト
今回の保険業法の改正では、当初保険会社以外の、保険業法の適用外で他の法律の規定によって行われている保険(共済)事業も、保険業法の規制の中に取り込もうか、という議論がありました。
最終的には保険業法以外の法律で規定されている保険事業については、従来通り保険業法は適用しない、ということになったのですが、その代わりに当該保険事業を規定している法律の方が改正され、保険業法に準じた規制が適用されることになりました。
具体的にはJA共済を規制する農協法が改正され、また県民共済やこくみん共済、CO─OP共済などの根拠となる生協法が改正され、また事業協同組合による共済制度を規制する中小企業等協同組合法が改正されました。そして、これらの法律にもとづく保険事業の運営についても保険業法と同様な規制が適用されるようになりました。
従来は、これらの法律にもとづいて保険事業を行うとはいっても、保険業法ほどの明確な、あるいは緻密な規制がなかったところに、保険業法にもとづく保険会社・少額短期保険業者なみの事業運営が求められるわけですから、こちらの方でも体制整備におおわらわです。
■解体・再生でマーケットは変わるか
今回の保険業法の改正により、これまで無認可共済として保険事業を行い、特定保険業者として届出をした業者は2008年3月末までで新規の契約の引き受けはできなくなり、また2009年3月末までしか保険事業を続けることができなくなります。
したがって、新規契約の引受けを続けたいのであれば、何とかして保険会社の免許取得、あるいは少額短期保険会社としての登録を済ませて、保険会社あるいは少額短期保険業者として営業するしかありません。
既契約の保障を続けるにしても、2009年3月末までに保険会社の免許を取得するか少額短期保険業者の登録を済ませる、あるいは既契約の包括移転を引き受けてくれる保険会社ないしは少額短期保険業者を探して契約を移管するなどの手続きをしなくてはなりません。
今のところ、多くの業者が新規契約の引受けを継続するために、何とかして2008年3月末までに免許取得、あるいは登録を済ませようとしています。それが間に合わない場合には、いったん新契約の引受けを停止しておいて、あとは1日も早く免許取得、あるいは登録を完了させて営業を再開するということになります。
その免許の取得、あるいは登録がうまく行きそうにないと判断したら、今後は事業の後始末を考えなければなりません。
既契約がもしも残っていたら、それをどこかの保険会社か少額短期保険業者に引き受けてもらうか、でなかったら契約者と相談して契約を終了させなくてはなりません。それが全て済んだところで、あらためて特定保険業者の廃業の承認申請および廃業届けということになります。うまく保険会社や少額短期保険業者になれなかったからといって、勝手に「ヤ〜メタ」というわけにはいかないことになっています。
とはいうものの、いったんは保険会社や少額短期保険業者を目指して特定保険業者の届出をし、その後、ハードルがあまりに高いためにそれをあきらめた会社が、さらにその事業をやめるために手続きやその他のことで手間やお金をかけるということがスムーズに行くかどうか?既契約者が置き去りになってしまわないかどうか?今後、さらにもう1年ちょっとの間は注目しておかなくてはならないでしょう。監督責任を持つ金融庁や財務局も、そこを混乱することなく収束させるためには、まだまだ当分の間は気が抜けません。
今回の保険業法の改正のスタートとなったのは、平成16年12月14日に金融審議会金融分科会第2部会から出された「根拠法のない共済への対応について」というレポートです。このレポートには、ユニークなサービスを開発・提供してきた無認可共済の事業を、キチンとした保険事業に育てあげていこう、という視点が見られます。
この目標に向かって、どのような方向での努力が必要なのか、あらためて考えてみることが必要なのかも知れません。
2008年1月15日掲載



