
破綻経験が真の顧客第一主義へ
株式会社 フォルテシモ
代表取締役 日高 久氏
7拠点60名体制に 地域密着型営業目指す
1999年に東邦生命が経営破綻した時、日高さんは本社に籍を置いていた。
30年近く勤務した保険会社は、外資系ファンドに買収されGEエジソン生命として生まれ変わることになった。
多くの社員と同様、日高さんもその後の見通しの不透明さに漠然とした不安を感じていた。地方で数場所、支社長として辣腕を奮っていた日高さんを慕う部下は多かった。そんな部下たちに背中を押されて独立を決意。翌年4月に㈱フォルテシモを赤坂に設立した。
「東邦生命時代の若い仲間たちが『一緒にやりましょう』と言ってくれたので、10名ほどで独立し10数社扱う代理店を設立しました」
日高さんの所へ集まった若い仲間たちは、新しいビジネスをやりたいという気持ちが強かったという。生まれ変わった新保険会社に残るという選択肢があったにも拘らず、迷いが微塵も感じられないほど、強い意思を持っていた。
フォルテシモ立ち上げの話を聞いた、かつての地方の部下からも次々に連絡が入った。そして日高さんの元に集まった仲間は30名位まで膨れ上がり、それぞれの地域に拠点を構えた。
集まった仲間の中には、トップクラスの営業職員も数名いた。彼女らは顧客数が多かった分、破綻の痛みも大きかったのだ。連日、苦情対応に追われながら、自らも傷ついた。その傷や苦悩を、日高さんと共に新しい代理店でパワーに転化し、顧客に報いようと思ったのだろう。
当初の1年間は設立のための登録業務等で業績は赤字。一部の社員は無給で働き、日高さんも手持ちの資金を切り崩して経営した。幸い、かつて優績者だった社員は、持ち前の卓越した営業力で月に30件以上も新契約を挙げた。
「きれいごとではなくて、経営破綻によってお客さまの信頼を裏切ってしまったという気持ちから、良い仕事をしなくはいけないとみんな必死でした」
こうして東京本社を含めて、現在では名古屋、名古屋西、仙台、群馬、福岡、直方の7拠点に拡大した。2002年には、東京本社を高田馬場に移し、社員たちのモチベーションもアップした。社員も約60名まで増加し、そのうち営業社員は50名を占めている。
特に、名古屋オフィスでは地域密着型の営業活動が成功している。
「保険会社を経験している社員は、地域密着型の営業スタイルに慣れているからでしょう。常にお客さまの傍にいるという存在感を示しています。万が一の時の保険金給付時の即応と適切な対応で、お客さまからの信頼を獲得しています」
常に顧客の顔が見える地域密着型の営業スタイルこそ、日高さんが目指す顧客主導のプル型市場と呼ばれるものだ。同社の昨年度の取扱い保険料は18億円以上。保有件数は生損保合わせて約1万件以上にも及ぶ。そのうち、7割以上を個人顧客が占めている。
脱ノルマの営業体制 拠点ごと月1回定例会実施
同社の大きな特徴は、ノルマなしの営業体制であること。
「東邦生命時代からノルマの弊害を感じていたので、独立当初からノルマはありません。ノルマがあるとお客さまの都合より、会社の都合を押し付けてしまいがち。ノルマがなければ、お客さまの立場で考えることが可能になります」
従って、日高さんは同社の業績目標をあえて公表しないと言う。ノルマは会社がこれだけ収益を挙げたいという設定の上に、個々の社員に課せられるものだ。従って、業績目標を公表することは、どうしてもノルマに繋がると考えた。
「自分はこれからどうしたいのか、どれだけの収入を目指すのかは、社員一人ひとりが自己目標として立てることで、私が言うべきことではありません。それでも、これだけ契約を挙げればこれだけの手数料になるという基準は伝えています。代理店手数料はスケールメリットで決められているので、貢献度の高い社員はコミッションを考慮しています」
この脱ノルマ営業体制の実践は、同社の組織力を高めたに違いない。
ほとんど退職者が出ないことや、真に顧客サイドに立ったコンサルティングが奏功して継続率9割以上という快挙にも現れている。
「当社の社員たちは、一社専属では良い仕事ができないことと、ノルマに追われるとお客さまに対して良い仕事ができないと言っています。それというのも、保険会社から来た社員が多いので、上から押し付けられて仕事をする辛さを経験しているからでしょう」
さらに、退職する社員が出た場合、契約を持参することも可能だという。顧客は営業担当者を信頼して加入しているケースが多いため、顧客を守るためのメンテナンスは担当者が継続する方が安心してもらえるからだ。
一方、顧客に対して営業担当者の考えを押し付けないことを信条としているように、社員に対しても日高さんは経営者の考え方を押し付けない。社員一人ひとりと密にコミュニケーションを取り、信頼関係を築く。その気配りが社内の風土作りにも影響し、社員たちの働きやすさにも繋がっているのだ。
社員の採用や拠点拡大に関しても、縁を重視している。一緒にやりたいと申し出てきた経験者と面談し、同社の理念を理解した人材を採用する。そしてその人材が地方在住ならそこに拠点を設置するというスタンスだ。
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もう一つの特徴は、拠点ごとに月1回の定例会を開催していること。
定例会の内容は、主に営業のディスカッション。活動報告に加え、保険のタイムリーな情報提供や営業ノウハウの付与も行われる。
「各拠点のリーダーが中心となり、丸1日掛けて行っています。保険会社のソリシターを講師に呼び、新商品の研修も行います」
また、同社にはアクチュアリー1名とCFPが5名在籍し、高いコンサルティング力が強みとなっている。
数年前に、顧客から年金についての質問が多かったことから、同社のアクチュアリーが執筆しCFPが監修した「知っておきたい わたしの年金 知っているつもりからなるほどへ」というタイトルの冊子を同社から発行した。
「この冊子は年金の解説本ではなく、書き込み形式で年金を試算できるようにしました。当時は自分の年金に対する不安を持つお客さまが多かったので、大反響でした」
発行に合わせて、証券会社とタイアップして年金セミナーも開催したそうだ。
一方、顧客であるボクシングジムへの後援も行っている。これまで4回「フォルテシモ エキサイトボクシング」を開催。他の代理店とは異質の活動を続けているのも特徴的だ。
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2008年9月17日、朝早くから同社の電話が鳴り続けた。米国AIGの経営不安を受けて、わが国のAIG傘下の保険会社の既契約者からの問い合わせが殺到したのだ。
思わず、東邦生命の頃を思い出しました。あの時は、お客さまに嫌な思いをさせてしまったので、今後は絶対に避けたい。社員も破綻の経験者が多いので、かなり敏感になっています。『こういう状況ですが、どうしますか?』とお客さまの意見を聞きながら状況を見ています」
二度と顧客に迷惑を掛けたくない──社員全員の思いが通じることを願わずにいられない。(本紙・樋口利子)
ひだか・ひさし 東邦生命において岐阜支社長、東海ブロック本部長兼名古屋支社長、本社開発企画部長を歴任。1999年同社の破綻を機に、2000年3月に退社。同年4月にフォルテシモを赤坂に立ち上げ、現在に至る。宮崎県出身。趣味はゴルフ、音楽鑑賞。
URL: http://www.fortissimojapan.com




